風信



しとどに濡れてこれは道しるべの石  (山頭火)

from 2002 note

小宇宙

捨てられた自転車
タバコの吸殻
空き缶…
『物を捨てないでください』の標識

吹き溜まりのような片隅で
視線もむけられない空間で
自らをはぐくみながら
ずっと待っていたんだ

ニンゲンにとって無用の空間が
彼らの生活の場所
いのちが輝く場所
彼らの小宇宙がより拡がる場所
そしてまた待ち続ける場所

待っているから、いっそう輝く
待ってたぶんだけ、思いきり展開できる
待っているからいっそう、新鮮
気がつかなかったぶん、より美しい
無視されてたぶん、より魅力的
世話されなかったぶん、つよいんだ
全身が春になるんだ

もしあるとしたら
それが持続の根拠だろう
いのちの輝きだろう

「はなごころ」というものがあるとしたら
それは思いをはぐくみながら
信じて待ち続けるこころかも…

 

 

 

三毛猫MIE

気配は感じるが近づいてはこない
視線を感じるが目線を向けるともういない

MIEの視線を感じたときは
どんなときでも話しかけて
自分から去るまで撫でていた

この1週間1回もMIEを
ひざの上に乗せていないことに気がついた…

MIEの信号に気がつかなかったのだ

思いのなかにとどまってはいけない…
他者を繰り込んでいない思いは空転するだけ…

僕がMIEの信号に気がつかなかったのではなく
MIEが受容するキャパのない僕に近づかなかったんだ

 

 

わるくちのすきな女の子

むかし「星の王子さま」を読んだとき、 王子さまのいう 「いちばん大切なものは目には見えないんだよ。砂漠が美しいのはどこかに井戸を隠しているからなんだよ…」という言葉でぼくの無味乾燥した砂漠のような心象風景のなかにひとつのオアシスができた。

そのときの本との出会いの感動を「わるくちのすきな女の子」読んで思い出した。「ほんとうのこと」 「だいじなこと」につながっていくこころを。本もいつもひとに語りかけている。その声が聞こえないだけ…耳をかたむける準備ができてないだけ…

いまこの本はかまどの火の調節の仕方を教えてくれる。
ゴーゴー燃えているのは黒いかまどだけでなく、想いが過剰になった赤いかまどもゴーゴ-と燃えている。調整しないとその炎で対象が見えなくなってしまう。
オアシスだって干上がりそうだ、

 

王子様の友達のきつねはいう
「なに、なんでもないことだよ。こころで見なくちゃものごとはよく見えないってことさ。」

    おもいこみ鳥 おもいこみ鳥
    世界のはてまでとんでいけ
    ちりになるまでとんでいけ

 

 

 

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