風信 05



何もかも雑炊としてあたたかく (山頭火)

from 2004 note

阿佐ヶ谷 街のカフェ

あなた関西でしょう?
どこ?

和歌山です

ぼくね、昔、学生時代に
休みになるとあっちの海岸にいって
一日中寝転がってたんだよ
気持ちよかったな

どうもありがとうございます

あなた見たことないわね
いつからなの?何歳?

今日からです

あらそう、よろしくね、
じゃ~ ブレンドおねがいね

どうもありがとうございます

何歳?学生?学校どこ?生まれどこ?

新しい男の子がカウンターのなかにいた
まずは質問攻めの洗礼をうけている
そうやってなじんでいくのだろう

今日もおばあさんたちは元気みたい


神話の時代

魚が歩くんだよ
嘘じゃないよ、ホントだよ
なんという名前か知らないけど
四角張った顔でエラを手足のように使って歩くんだよ

家のまえの海岸がまだ白くて美しい砂浜だった頃
タツノオトシゴが揺れてる藻のなかを立ち泳ぎしていたり
まん丸い小さなフグがまわるように泳いでいたり
毒のあるオコゼのきれいな衣装に見とれたり…

そんなときえらそぶった四角い顔の魚が
ゆったりと指揮者ぶって歩いていたんだよ
本当に歩いていたんだよ

海は一つの協奏曲だった
昔はそんなコンサートもあったんだ


途中経過…

切実に考えてることほど
現実に対しては何にも役に立たないんだね

いつも現実ってちがった角度から
突然その姿を現すんだ

現実という並行世界
それぞれの現実がゴチャゴチャしてる
いったいメモリーの限界はどのくらいなんだろう
もうフォーマットしてもいいころかな

机の中はいらなくなった現実で一杯だ
机の中はいらなくなった記憶で一杯だ
机の中はいらなくなった想いで一杯だ

結局なんの役に立たなくても
うんざりしてても
また考えてしまう…
今日一日は…
明日一日は…

ひとつ気づくということは
ひとつ失うということなんだね


さよならの方角

フォーマットするたびにそぎ落とされていく
悲しいほどに抱え込んだ過剰・・・

消えゆくなかで、
それぞれのファイルの混乱が見える
みんな混乱を抱え込んでる

想うことは過剰になることか?
過剰になることでしか
自身を確認できない自己
自然消滅できなくなったTMPファイルばかり
あのとき、あのことば
If・If・If・If・If・If…

どこまでちゃんと過剰を削除できるかだ
後退戦をいきるためには…


マティスさん
やっとあなたに会うことができた

のびやかな線・色に出会えてうれしかった
いろんな色の海のなかを泳ぐことができた
いろんな線の道を散歩することができた
いろんな絵のなかで遊べて楽しかった

色と線が JAZZ を演奏してくれた
赤の演奏がステキだった
青の演奏もステキだった

演奏のあとはソファーや机に
うつぶせになって
猫のようにくつろいでいる
女性のよこでうたた寝できたら
しあわせだなと思った

 

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