風信 05
何もかも雑炊としてあたたかく (山頭火)
from 2004 note
●阿佐ヶ谷 街のカフェ
あなた関西でしょう?
どこ?
和歌山です
ぼくね、昔、学生時代に
休みになるとあっちの海岸にいって
一日中寝転がってたんだよ
気持ちよかったな
どうもありがとうございます
あなた見たことないわね
いつからなの?何歳?
今日からです
あらそう、よろしくね、
じゃ~ ブレンドおねがいね
どうもありがとうございます
何歳?学生?学校どこ?生まれどこ?
新しい男の子がカウンターのなかにいた
まずは質問攻めの洗礼をうけている
そうやってなじんでいくのだろう
今日もおばあさんたちは元気みたい
●神話の時代
魚が歩くんだよ
嘘じゃないよ、ホントだよ
なんという名前か知らないけど
四角張った顔でエラを手足のように使って歩くんだよ
家のまえの海岸がまだ白くて美しい砂浜だった頃
タツノオトシゴが揺れてる藻のなかを立ち泳ぎしていたり
まん丸い小さなフグがまわるように泳いでいたり
毒のあるオコゼのきれいな衣装に見とれたり…
そんなときえらそぶった四角い顔の魚が
ゆったりと指揮者ぶって歩いていたんだよ
本当に歩いていたんだよ
海は一つの協奏曲だった
昔はそんなコンサートもあったんだ
●途中経過…
切実に考えてることほど
現実に対しては何にも役に立たないんだね
いつも現実ってちがった角度から
突然その姿を現すんだ
現実という並行世界
それぞれの現実がゴチャゴチャしてる
いったいメモリーの限界はどのくらいなんだろう
もうフォーマットしてもいいころかな
机の中はいらなくなった現実で一杯だ
机の中はいらなくなった記憶で一杯だ
机の中はいらなくなった想いで一杯だ
結局なんの役に立たなくても
うんざりしてても
また考えてしまう…
今日一日は…
明日一日は…
ひとつ気づくということは
ひとつ失うということなんだね
●さよならの方角
フォーマットするたびにそぎ落とされていく
悲しいほどに抱え込んだ過剰・・・
消えゆくなかで、
それぞれのファイルの混乱が見える
みんな混乱を抱え込んでる
想うことは過剰になることか?
過剰になることでしか
自身を確認できない自己
自然消滅できなくなったTMPファイルばかり
あのとき、あのことば
If・If・If・If・If・If…
どこまでちゃんと過剰を削除できるかだ
後退戦をいきるためには…
●マティスさん
やっとあなたに会うことができた
のびやかな線・色に出会えてうれしかった
いろんな色の海のなかを泳ぐことができた
いろんな線の道を散歩することができた
いろんな絵のなかで遊べて楽しかった
色と線が JAZZ を演奏してくれた
赤の演奏がステキだった
青の演奏もステキだった
演奏のあとはソファーや机に
うつぶせになって
猫のようにくつろいでいる
女性のよこでうたた寝できたら
しあわせだなと思った