風信 09



ひつそり蕗のとうここで休まう  (山頭火)

from 2006 note

いくらコトバを溜め込んでも
コトバを積み上げていっても
その総和は「現実」にはならない
その総和は「いのち」にはならない

コトバで「いのち」を掴もうとしてきた…
コトバで「想い」を掴もうととしてきた…

大切に感じるだけでいいのかもしれない
掴もうとするから指の隙間から零れ落ちるんだ

コトバは悲しいほど不自由だ
コトバは悲しいほど傷つける

そんな時は砂漠に行こう
そこは瞬間的に【コトバ】を無化してくれる圧倒的な【場】だ

なんにもない赤茶けた瓦礫と砂の世界が
コトバにならないもの
目には見えないものを教えてくれる
佇むしかないことを…


出会いを面白いと思うようになった

人との出会い
他者の心象風景のなかにたたずみ
耳を澄ますこと
風を聞くこと
彩を感じること

人との関わり
他者を旅すること

とどまっていたい場所がある
同じ空気を吸い
空気の流れを感じ
同じ場所に寝そべっていたくなる

自分を無化してしまう場所がある
同じ場所に立ち尽くすしかないだろう

どの風景もその固有さのなかに
水脈を持っている
そこしか根拠は無いだろう

どんな風景も
空気を吸い
風を感じ
水で潤う
そこからしか始まらない

そこしか立ち尽くす場所はないんだろう


また恥ずかしさを溜め込んだ…
ハードディスクのなかは恥ずかしさ、愚かさ、情けなさで一杯…

コトバは、「気恥ずかしさ」を理解できないのかもしれない…
発語されると同時に「気恥ずかしさ」は居直りに転化するみたいだ…
その度にもうコトバなんかもう喋りたくなくなる…
語るはしから後悔するエンドレス回転ハツカネズミ…

コトバって抽象化された圧縮ファイルに過ぎないのに…
その圧縮された硬さゆえに現実に切り込めると錯覚してしまう…

圧縮ファイルは他者へ、世界へ投げつけられる
自己のなかに解凍されてはじめて、
その中身を見ることができるのに…

また恥ずかしさが溜まっていく…
でも重いからといって削除しちゃうと自分が消えてしまう…
まだそいつらのおかげで自分が自分でいられるのかも…


ふと思った、どうして
こんなにちぐはぐなんだろう…
こんなに希薄さがつきまとうんだろう…

ヒトはベーシックシステムとして
生命進化の5億年の時の蓄積を
10ヶ月で追体験しながら
身体システムを構築して
この世に出てくる

8ヶ月で出てきた僕は、なんと
1億年分の進化の欠落があるわけだ!

これじゃバランスが悪いはずだよ
身とこころのどこかに欠落があっても
ちっとも不思議じゃない…

思わず吹き出してしまった!
1億年だよ、1億年の欠落
まだヒトまで進化していないんだよ
こりゃ、笑うしかないよ

まさにネオトミー
しょうがないんだ、こんな俺で
まったくもう、気が楽になるよ…

こりゃ、僕が引きずっている
いろんな「不調和の調和」の元締めかも…


降りそそぐ雨のしずくがここちいい
さらさらだった砂も水分をおびてきているんだよ

いままでは僕の砂漠をこれ以上干からびないように防衛するのが精一杯だったんだけど
いまなら太陽にむかっている僕のからだから蒸気が立ち上ってるのが見えるかもしれないよ

僕もまた空まで上って降りそそぐ雨のしずくになるんだ
雨は無数の自分の分身
無数の生命あるものの分身

雨にぬれるといままで見えなかったものが見えてくるよ
聞こえなかったものが聞こえてくるよ

空を360度見てみて
地面を360度見てみて
雨の静けさに耳を澄ませてみて
なにせ相手は森羅万象なんだからね…

雨にぬれれば世界も変わるんだ
こころも変わるんだ
僕のような砂漠だらけの土地にでも雨は降るんだよ
たったひとつでも井戸があればいい
僕という地下水脈は枯れないかも

 

next   |   before