風信 06



ふりかえらない道をいそぐ (山頭火)

from 2005 note

さよなら2004
楽しかったよ
つらかったよ
嬉しかったよ
悲しかったよ

有頂天だったり・・・
惨めだったり・・・
まるで当たらない天気予報

ぼくは毎日、
死体になったり
医者になったり
検死官になったり
シャーマンになったり
森羅万象のプリズムだった

コトバを空々しく感じなくなった
コトバが僕を表現したがっている
コトバは僕を貧しいといっているが
僕はコトバを近く感じるようになったよ

1回の自分をチャンと生きるために
100万回死んでもいいよ
「今日は死ぬのにもってこいの日」と
言える日に出会うために…



行方不明
だいじにだいじに
包みこんでいるコトバと
掃きすてるコトバが
同居している

書かれたコトバも
つたわるコトバと
つたわらないコトバがある

どのコトバも温もりは同じなのに
どのコトバも大切さは同じなのに
掃きすてるコトバだって
涙の重さをしょっている

つたわることによって
コトバはそのこめられた想いから
自分自身を解放し自由になる

つたわらなかったコトバは
まちがって解釈されたコトバは
こめられた想いを背負いながら
宙をさまよい続けるのだろうか…



かもめ
風にのってとぶ
風をえらんでとぶ
風をつくってとぶ

ずっととんでいたい
海のうえ
野っぱらのうえ

いまある場所でいい
いまある時間でいい

とんでるときが
いきているとき



無縁仏
想いとカラダがさきばしり
コトバを見失うことがある
自分のなかにあるコトバをさがしてみた

他者のいないコトバ
自己のいないコトバ
概念だけのコトバ
コトバを次々に削除する

ゴミ箱は自己完結するコトバでいっぱい

コトバは吹きぬける風でいい
行き先なんて風しか知らない
風が自由であるかぎりコトバは死なない
コトバに呪縛されないこと
コトバは流れる雲でいい
行き先なんて雲しか知らない

コトバが無縁仏になるとき
そこいらにある石や木片や葉っぱに
「いつも想いはいっぱいだったよね」
とでも書いて
海や川にほうり投げてくれれば
それでいい



阿佐ヶ谷商店街 日曜デイサービス?
一杯160円のコーヒーショップ
やっぱりそんなに美味しくない

でもなにかいい雰囲気がある
じいさんばあさんがくつろいでいて
気兼ねのない感じがする

店の女の子もやわらかく
ゆったりとしてこだわらない
雰囲気をもっている

”明日は検査があるからミルク多めにして”
女の子が振り向くまえから
注文しながら通り過ぎていくおばあさん・・・

小さなスポットライトのもとでは
白髪のめがねをかけたおばあさんが
キリッとした姿勢で本を読んでいる・・・

片隅ではもくもくと蒸気機関車みたいに
タバコの煙を吐いているおじいさん・・・

新聞を読みながらブツブツ
文句いっているおじいさんたちの集団・・・

学生らしきやつ、サラリーマン風のやつ

それぞれの勝手な空間が違和感なく共存していて
とてもステキな空間だ

僕もゆっくり時をわすれてくつろぐことができた
コーヒーの味には目をつぶろう

こんどまたここに来よう
平日の朝はどうなんだろう
ちょっと早く起きればいいだけ
苦にはならない

ここも僕の隠れ家のひとつに追加・・・



春がうまれる

春のやさしい暖かさ
さやえんどう
芽立ちが始まった
あじさい
ゆきやなぎ

マグマ
ことばを「字」ではなく
「音」でききたいときがある

「字」はときとしてよそよそしい
かたくなに閉じていく

「音」はときとして鋭利な刃物
考える猶予もなく突き刺さる

でも一旦、表現されてしまえば
「字」であろうが「音」であろうが
着地点を求めて右往左往
あとは笑い話

ことばなんて
空気に触れたとたんに
気化してしまえばいい
ドライアイスみたいに・・・

でもぼくは知ってるんだよ
ドライアイスも
以前はマグマだったこと

…………………………………..
冷ややかに水をたたえて斯くあれば
人は知らじな火を噴きし山のあととも (生田長江)
…………………………………..



そうなんだ
「ひと」と「ひと」のあいだには
身がすくむような崖っぷちがある

測定できないような距離がある
微妙な体温の違いがある
微妙なコトバの色彩の違いがある
屈折率・反射率の違いもある

でも、その崖っぷちから
落ちてもいいから
飛んでみたくなるような

倒れてもいいから
走りたくなるような

ひとに出会うことがあるんだ

無意識の凍てつく寒ささえ
ブレーキをかけられないような
想いをもつことがあるんだ

しかし、ひとつの出会いは
ひとつの別れを生みだす
システムでしかないのだろうか

ひとはいつも進行形の存在
判決なんか下せない
継続審理でしかありえない存在

そんな立ち尽す思想を
つくるしかないのかも…



コトバはヒトのあいだを吹き抜ける風でいい
コトバは関係の豊かさを吸収して咲く花
美しさを支えるのは関係の土壌の拡がり

花を見て全体を判断してはいけない
関係世界がコトバを生み出すのであって
コトバが世界を作るんじゃない

花が美しいのは土壌に支えられた根っこの
いのちが透いて見えるからなのに・・・
…………………………..
春の空はひかる、
絹のよにひかる、
なんでなんでひかる。

なかのお星が
透くからよ    金子みすず 「空と海」
………………………………



天気図
関係という天気図のなかで
コトバはその気象条件に応じて
さまざまに変容する

コトバは危険な武器になる
コトバをひとり歩きさせてはいけない
コトバと現実を逆立ちさせてはいけない

根っこから切り離されたコトバは枯れてしまう
コトバのもつ拡がりの豊かさを奪ってしまう

傘を持って出る前に
天気図をもういちど見よう…

言葉のなかに透けて見えるものが
一番大事なもの
関係のなかに透けて見えるものが
一番大事なもの
想いのなかに透けて見えるものが
一番大事なもの

世界を凍らせるのもコトバ
こころを凍らせるのもコトバ

世界を解凍するのもコトバ
こころを解凍するのもコトバ

コトバなんて
ヒトとヒトのあいだを吹き抜ける風でいい



春がうまれる

春のやさしい暖かさ
さやえんどう
芽立ちが始まった
あじさい
ゆきやなぎ

 

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