風信 06
ふりかえらない道をいそぐ (山頭火)
from 2005 note
●さよなら2004
楽しかったよ
つらかったよ
嬉しかったよ
悲しかったよ
有頂天だったり・・・
惨めだったり・・・
まるで当たらない天気予報
ぼくは毎日、
死体になったり
医者になったり
検死官になったり
シャーマンになったり
森羅万象のプリズムだった
コトバを空々しく感じなくなった
コトバが僕を表現したがっている
コトバは僕を貧しいといっているが
僕はコトバを近く感じるようになったよ
1回の自分をチャンと生きるために
100万回死んでもいいよ
「今日は死ぬのにもってこいの日」と
言える日に出会うために…
●行方不明
だいじにだいじに
包みこんでいるコトバと
掃きすてるコトバが
同居している
書かれたコトバも
つたわるコトバと
つたわらないコトバがある
どのコトバも温もりは同じなのに
どのコトバも大切さは同じなのに
掃きすてるコトバだって
涙の重さをしょっている
つたわることによって
コトバはそのこめられた想いから
自分自身を解放し自由になる
つたわらなかったコトバは
まちがって解釈されたコトバは
こめられた想いを背負いながら
宙をさまよい続けるのだろうか…
●かもめ
風にのってとぶ
風をえらんでとぶ
風をつくってとぶ
ずっととんでいたい
海のうえ
野っぱらのうえ
いまある場所でいい
いまある時間でいい
とんでるときが
いきているとき
●無縁仏
想いとカラダがさきばしり
コトバを見失うことがある
自分のなかにあるコトバをさがしてみた
他者のいないコトバ
自己のいないコトバ
概念だけのコトバ
コトバを次々に削除する
ゴミ箱は自己完結するコトバでいっぱい
コトバは吹きぬける風でいい
行き先なんて風しか知らない
風が自由であるかぎりコトバは死なない
コトバに呪縛されないこと
コトバは流れる雲でいい
行き先なんて雲しか知らない
コトバが無縁仏になるとき
そこいらにある石や木片や葉っぱに
「いつも想いはいっぱいだったよね」
とでも書いて
海や川にほうり投げてくれれば
それでいい
●阿佐ヶ谷商店街 日曜デイサービス?
一杯160円のコーヒーショップ
やっぱりそんなに美味しくない
でもなにかいい雰囲気がある
じいさんばあさんがくつろいでいて
気兼ねのない感じがする
店の女の子もやわらかく
ゆったりとしてこだわらない
雰囲気をもっている
”明日は検査があるからミルク多めにして”
女の子が振り向くまえから
注文しながら通り過ぎていくおばあさん・・・
小さなスポットライトのもとでは
白髪のめがねをかけたおばあさんが
キリッとした姿勢で本を読んでいる・・・
片隅ではもくもくと蒸気機関車みたいに
タバコの煙を吐いているおじいさん・・・
新聞を読みながらブツブツ
文句いっているおじいさんたちの集団・・・
学生らしきやつ、サラリーマン風のやつ
それぞれの勝手な空間が違和感なく共存していて
とてもステキな空間だ
僕もゆっくり時をわすれてくつろぐことができた
コーヒーの味には目をつぶろう
こんどまたここに来よう
平日の朝はどうなんだろう
ちょっと早く起きればいいだけ
苦にはならない
ここも僕の隠れ家のひとつに追加・・・
●春がうまれる
春のやさしい暖かさ
さやえんどう
芽立ちが始まった
あじさい
ゆきやなぎ
●マグマ
ことばを「字」ではなく
「音」でききたいときがある
「字」はときとしてよそよそしい
かたくなに閉じていく
「音」はときとして鋭利な刃物
考える猶予もなく突き刺さる
でも一旦、表現されてしまえば
「字」であろうが「音」であろうが
着地点を求めて右往左往
あとは笑い話
ことばなんて
空気に触れたとたんに
気化してしまえばいい
ドライアイスみたいに・・・
でもぼくは知ってるんだよ
ドライアイスも
以前はマグマだったこと
…………………………………..
冷ややかに水をたたえて斯くあれば
人は知らじな火を噴きし山のあととも (生田長江)
…………………………………..
●そうなんだ
「ひと」と「ひと」のあいだには
身がすくむような崖っぷちがある
測定できないような距離がある
微妙な体温の違いがある
微妙なコトバの色彩の違いがある
屈折率・反射率の違いもある
でも、その崖っぷちから
落ちてもいいから
飛んでみたくなるような
倒れてもいいから
走りたくなるような
ひとに出会うことがあるんだ
無意識の凍てつく寒ささえ
ブレーキをかけられないような
想いをもつことがあるんだ
しかし、ひとつの出会いは
ひとつの別れを生みだす
システムでしかないのだろうか
ひとはいつも進行形の存在
判決なんか下せない
継続審理でしかありえない存在
そんな立ち尽す思想を
つくるしかないのかも…
●コトバはヒトのあいだを吹き抜ける風でいい
コトバは関係の豊かさを吸収して咲く花
美しさを支えるのは関係の土壌の拡がり
花を見て全体を判断してはいけない
関係世界がコトバを生み出すのであって
コトバが世界を作るんじゃない
花が美しいのは土壌に支えられた根っこの
いのちが透いて見えるからなのに・・・
…………………………..
春の空はひかる、
絹のよにひかる、
なんでなんでひかる。
なかのお星が
透くからよ 金子みすず 「空と海」
………………………………
●天気図
関係という天気図のなかで
コトバはその気象条件に応じて
さまざまに変容する
コトバは危険な武器になる
コトバをひとり歩きさせてはいけない
コトバと現実を逆立ちさせてはいけない
根っこから切り離されたコトバは枯れてしまう
コトバのもつ拡がりの豊かさを奪ってしまう
傘を持って出る前に
天気図をもういちど見よう…
言葉のなかに透けて見えるものが
一番大事なもの
関係のなかに透けて見えるものが
一番大事なもの
想いのなかに透けて見えるものが
一番大事なもの
世界を凍らせるのもコトバ
こころを凍らせるのもコトバ
世界を解凍するのもコトバ
こころを解凍するのもコトバ
コトバなんて
ヒトとヒトのあいだを吹き抜ける風でいい
●春がうまれる
春のやさしい暖かさ
さやえんどう
芽立ちが始まった
あじさい
ゆきやなぎ