風信 #03



捨てきれない荷物のおもさまえうしろ (山頭火)

from 2003 note

会話

木漏れ日がもれる森のなかの小径
ひんやりとした木蔭
風がサーッと通りぬけ
葉っぱたちがざわざわと囁きあう
森のなかの木々たちが静かにその声を聴いている

京都は皆な美しいというけど、それは春や秋に来ていいところばかり見てるから
夏や冬は地元に何十年も住んでる人間でさえうんざりするんです・
ここはこんなに涼しい森があっていいわね
京都ってありそうでないのよ

和服のお婆さんと娘さんの頭上で葉っぱたちが「しぃー」と指を立てる
また風がサーッと通りぬけ
葉っぱたちがざわざわと囁きあう
森のなかの木々たちが静かにその声を聴いている

木々たちの会議室では今日の議題は『京都の一件について』だろう
議長格の大きな木の根元に座って耳を澄ました
邪魔だと思われてるにちがいないけど…


誘い

大宮へいく途中、
武蔵浦和駅で富士山に遭遇する

朝9時、冷たく澄んだ空気のなか、
早く隠れようと月が迷っている…
どでーんと構えている富士山に
お伺いを立てているのかもしれない

むかしからずっとそうなんだろう
縄文の時代
平安の時代
戦国の時代
江戸の時代
明治の時代

ふら~っと山に向かって歩きたくなる
なにがあるんだろう
なにが呼んでるんだろう
きっと何人ものニンゲンがそうしたはずだ
山の誘いに感応するものが人間のなかにある

山にむかってあるく山頭火の
背中がみえるような気がした

「わかれてきた道がまつすぐ」
「なんぼう考えてもおんなじことの落葉ふみあるく」


戸隠残影

山もそうだけど、空間というものは
有機性・無機性であるかを問わず、
ものが存在することによって、
単なる物理的空間から
関係性をもったある意思的な空間へ
転化するんだと思う…

戸隠神社の杉の木立を歩いているとき
一陣の風が僕にむかってきた
その風邪が僕の周囲を吹き抜けずに
なんと僕のなかを吹き抜けた
僕のなかを吹き抜ける風の粒子を感じたんだよ

空気が僕のからだの中、心の中を
小さな粒子となってとおり抜けたこと、
そう、空気の存在が僕と対立するのではなく、
僕のひとつひとつの細胞のあいだを
空気がとおり抜けたような感じ…、

僕の身体も風のように重さがなくなり
ものすごく「すがすがしい」感じ…
空気が、風が細胞内で拡散していく…
人間というひとつの自然として浄化された感じ

コトバは必要なかった
コトバ化する行為が
すでに逸脱した行為なんだと思った。
表現しなければいけないということは、悲しいこと…
今のぼくは、あのときの感覚を
もう一度感じることができるだろうか…

路端の花たちの存在を知るようになるだけで
世界が少し拡がる
樹を木立を森を見上げるだけで
世界が少し深まる

3月のアジサイ

しゃきっとした葉っぱの張り
まぶしいぐらいの緑の輝き
ちっちゃいけれど
いのちが詰まっているような
迫力・存在感がある

周辺の枯れた葉っぱたちも
ほかのいのちをはぐくむ
役割を果たしてるんだ

地面を見るといくつかの
いのちが芽生えている
梅雨のアジサイの花を見るまでは…
と元気をもらった

ニンゲンも毎年毎年
いのちをいちから
更新できたらいいのに…

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